屋上でって、お母さんっ高校生ですか?


もう何年前になるのかな、、、 

初夏の日差しが気持ちいい休日のある日
早起きをした僕は、バイクを洗車し乾くのを待たずにひとり母が入院してる病院へ向かった。

通い慣れたいつもの道でもバイクで風を切って走っていると不思議と風景まで違うように見えてくる。

夏の匂い、風切り音と風の香り、、、
そんなふうに季節を感じながら走っているとあっという間に病院に着いた。

ヘルメットを脱ぎ捨てホルダーに引っ掛ける。そしていつものルートで病室へ向かう。
いつもの事だが病室に母がいた試しがない。
キョロキョロしていると間髪入れずに隣の元気の良いおばさんから声がかかる。

「毎日御苦労さまだね。さっちゃんならまた屋上だよ。」

そして、たまたま病室にいた先生からもここぞとばかりに声をかけられる。

「全く、新居さんは、また隠れて煙草を吸っているよ。きっと隠れてるつもりなんだろうけど出やすい屋上は低いからね、丸見えなんだよね。アハハ、まるで高校生みたいだね。癌だって言うのに隠れて煙草吸い続ける患者は初めてだよ。」
 
ちょっと返答に困り頭をかきながらぺこりとお辞儀して
僕は、沈黙して苦笑いでごまかした。

こればかりは、先生も呆れ顔でどうにも出来ないって表情で、でもその優しい眼の奥では、笑っているように感じた。
少し同室の患者さんと笑いながらお話をしていると吸い終わった母が戻ってきた。

「おっ、厚か。今日は腰が痛いんだ。こっちで背中を指すってくれや。」
 
と僕を見つけるとすぐにそう言いながら腰をこちらに向けてベッドに横たわる。

病室に入ってきた時の顔は元気そうだったので安心したが
それは周りに気を遣わせないようにしている母のいつもの姿。

どんなに辛くても決して人様にはその辛いことを感じさせない気遣いに、いつもスゲな~なって感じていた。

そして僕はそのことには触れずにゆっくりと腰をマッサージし始める。
 
「今日は特に調子悪い、抗がん剤の副作用でずっと気持ち悪い、煙草吸っても駄目や。気がちっともまぎれん。」
 
といってマッサージしている間ずっと苦しそうに我慢をしていたね。

「ここんところちょっとタバコ吸い過ぎやないの?」
 
さっきの先生の言葉が頭をよぎり、思わずそう母に問いかけてみた。
 
「そんなことあるかい。あたしは健康のためにタバコを吸っているんだ。吸わずにストレスをためるより吸ってリラックスできた方が良いに決まっている。」
 
「まっ、確かにストレスをためるよりは、いいかもね。」
 
そんな母の言葉を否定することもなくただ聴いてあげた。
 
「よし、今度は向きを変えるから、こっちを頼む。」
 
と寝返りをうった時に他の病室から患者さんが満面の笑みで入って来た。

 「ねぇねぇ、さっちゃん、私そう長くないし,外へも出られないから髪カットしてくれるとありがたいんだけどね。だめかな?さっちゃんから先生に聞いてみてよ。許可でると思うからさ、さっちゃんプロなんだから。」
 
「よし、ちょっと待ってな、今、先生に聞いてみるから。」
 
と言いながら飛び起きて、ベッドの脇に座ったかと思ったらすぐさま先生のところに小走りでいってしまった。

どんな念いを伝えて来たのか、帰ってくるときの表情は満面の笑みで
 
「特別にお許しをもらったよ。」

肌身離さず持っていた道具を出してすぐさまハサミでカットを始める。
さっきまで話すのだって辛そうにしていたのに、ハサミを握った瞬間から美容師の顔に変わる。

誰が観ても美容師が天職だと分かるようなその表情に、僕は、いつも誇りを感じていた。
そしてあっという間に患者さんの髪を綺麗にしてあげる。

子どものような笑顔で嬉しそうな母をみていると心底、髪を弄り人を綺麗にしてあげるのが好きなんだなって思えた。

するとこんなチャンスはないとばかりに、それを観ていた周りの患者さんや隣の病室からも次から次へと側に来て、
 
「私もカットしてよ。お願い私も、、、」
 
と言う感じになり、初めに訪ねてきた患者さんだけじゃなく噂を聞きつけてきた患者さん全員の髪を瞬く間に、仕上げてあげていた。
まっ、僕は床に落ちた髪の毛の掃除をさせられ(笑)
帰ろうと思ったけど帰れなくて、、、

全てのカットが終りベッドに腰掛けたときに、

 「ハサミ握って髪を綺麗にしているときが楽しいんよな一番。痛みも辛いのもみんな忘れるんだよ。ほんとそのときだけはな、、、」
 
といって、ベッドに横たわる。そして間髪入れずに
 
「はい、じゃ、お疲れの母に、も少し背中をさすってくれ。」
 
「ハイハイ、あれやね、お袋は、美容師が天職なんだね。」
 
そう声をかけても返答はなく、ただ黙って痛みに耐えているだけの母がそこに居た。

そのあと、2時間くらい背中をさすりながら、母が眠りにつくまでそばにいて、眠りに付いたのを確認して病室を後にした。
 
病室で患者にハサミを持たして、他の患者さまの髪を切るなんて、、、

本来なら許されない行為だと思うけど、それも先生に認めさせて、病室の患者さんたちみんなを綺麗にしてあげた母。

先生や患者さんたちにどれだけ信頼されていたのか、その人間力に、この母の子に生まれて良かったと、痛切に感じた帰り道だった。
 
「人を幸せにしてあげること。何でもいいから与える人になりなさい。自分より、まずは他人のためにしたら、それが自分の幸せになるから。」
 
とよく言っていたのを思い出した。
いつも言っていたことを目の前で実践してくれた母に感謝しなきゃだね。

 そして、何より忘れられない母の強よさは
 
「どうにも手の施しようがないなら何もしないで閉めてください。そして、治療になったら、最後は人間らしく死にたいから、モルヒネは使わないで下さい。全て現状を受け止めます。それがお願いです。」
 
と母の想いを汲んで家族会議で決めて臨んだ母にとって初めての手術の日。

しかし、家族の祈りもむなしく1時間ちょっとで母は
手術室から出てきた。

目をつむって優しい表情だったのを覚えている。
そしてそれは、もう手の施しようがないという事実を叩きつけられた瞬間でもあった。

父と顔を見合わせたとき、顔を曇らせた表情で、
 
「ちょっと早かったな。転移しているってことだろうな。」
 
と父がつぶやく。

それは、私達家族が覚悟を決めて瞬間でもあった。
それから、目が覚めた病室で医師から話をひととおり聞いた母からの第一声は、
 
「先生、大丈夫や、戦って見せるけど人として死にたいからモルヒネだけはやらんといて、そして私が死ねば癌は死ぬや。足したことはない。覚悟はしてたし、人は、いつかは死ぬもの。ただ期限が区切られただけ。」
 
家族も先生も言葉を失った。どんな時も取り乱さない、人前では特に、また実践してくれた。

廊下で先生から
 
「強いお母さんですね。こんな人初めてです。」
 
と言って、関心していた。
 
でもボクは知っている。母も人の子、人知れず涙していたことを、、、。
 
実は、母は、癌と宣告されるのが怖くて異常出血が続いているのに産婦人科にしか診察に行けず3年が過ぎてしまってたんだよね。
そのとき勇気を出して行ってくれていればって後悔したくないけど、、、

これも何かの運命なんやろなぁって思うことにしている。

一度だけ母が口にしたことがある。炬燵で、みかんを食べなからタバコを吹かしながら
 
「もっと早くきちんとしたとこで診察を受けていたらと思うことがあるよ。でもこれも私の人生だから受け止めないとね。」
 
人生は、分かれ道で、選択の連続で、たまたまその道を選択した結果なだけ、、、
もう片方を選択していたら違った人生があったかも知れないけれど、それも含めて受け入れるのが人生だって思う。
 
仕事が休みの日に、子どもを連れて病室を尋ねる。いつものように同室の人から声がかかる。
 
「さっちゃんなら、いつものとこだよ。そこの窓から見えるよ。」
 
そう言われたので、病室の窓を開けて辺りを見渡してみる。
すると隣の病棟の屋上の階段の隅で隠れるように煙草を吸っている姿が見える。
 
「まったくね。さっちゃん自身は屋上だから誰もわかってないと思っているようだけど、隣病棟のが近いからってここより低いんだよね。」
 
「ねぇ、お父さん、ばあちゃん何してるの?」
 
と娘から聞かれる。
 
「大好きな煙草を吸っているよ。見てごらん。病気だからほんとうは吸ってはいけないのに隠れて吸ってるんだって。丸見えだね。」
 
「ばあちゃん。」
 
って声を出して娘が手を振る。

母も気がついたようで、慌ててタバコを消して手を振り返す。
 
すぐに病室に帰って来て、
 
「エリ、今日は一緒に来てくれたんだね。ありがとう。」
 
「エリ、梨でも食うか?好きだよね。」
 
ってニコニコしながら頭を撫でおわると、病室にあった梨を剥き始めて一緒に食べさせてくれた。
その後、エリを残し洗濯と買い出しにいったのでどんな会話してるのかななんて思いながら病室に戻ると

まだ笑いながらエリと話をしていた。
 
「はい、これが頼まれたもので、こっちが洗濯終わったやつね。新しいのはこっちね。」
 
と言って手渡す。
 
「今日は、たくさんエリと話ができて楽しかったよ。やっぱ孫は可愛いな。退院したら一緒にテニスをする約束をしたよ。」
 
「ばあちゃんは、屋上でタバコを吸ってたって笑われたよ。まっ、これは止める気はないけどな。見つかるとは思わなかったよ。こんどは場所変えなきゃだな。」
 
といっているその表情は、とても活気に溢れていた。エリも楽しかったようでニコニコしていた。

あまり親孝行出来なかったけど孫との時間を共有させてあげられて、唯一の親孝行かなと。

素敵な時間を共有できたようで良かった、、、

つづく、、、

湘南のカウンセラー新居 厚人

その悩み、、、 一人で抱え込むのは重すぎませんか? 話を聴くことしかできないけど、、、 僕に話してみませんか?

0コメント

  • 1000 / 1000